映画パンフレット(東宝・A4) DVD
映画パンフレットより ©東宝
題 名:
世界大戦争
製作国:日本
製作年:1961年(S36)
配 給:東宝
スタッフ
製 作:藤本真澄、 田中友幸
脚 本:八住利雄、 木村 武
監 督:松林宗恵
撮 影:西垣六郎
特撮監督:円谷英二
音 楽:団伊玖磨
出演者
フランキー堺 宝田 明 星由里子 乙羽信子
白川由美 笠 智衆 ジェリー伊藤 東野英治郎
上原 謙 山村 聡
ストーリー
戦後十数年、一面の焼野原と化した東京がともかく大都市と呼ばれる姿に復興したのは人々が一生懸命働いたからにほかならない。
アメリカ・プレスクラブの運転手田村茂吉もその妻お由と共に裸一貫からささやかな倖せを築いてきた一人だった。
もし世界が戦争に巻き込まれたら、ボタン一つの操作によって、音速の十倍以上の速さで飛んで来るミサイルが全人類を灰にしてしまうだろう。誰れか一人の人間が間違って、あるいは慌ててボタンを押したら、地球は取返しのつかないことになる。しかし今ならまだ間に合うのだ。政治家だけに任せておくのではなく、全人類が一つになって、原水爆を止めるための何かをしなければならないことを真剣に考えていた。
全世界の国民の願いをよそに、世界を二分し全人類の破滅を意味する核戦争の鍵を握る同盟国側は、一触即発の状態を続けていた。緊張した国際状態に輪をかける事件が続発する中で、貨物船笠置丸の通審技師、高野は船上で突然、夜空にオレンジ色から紫紅色へ拡がり膨れる不思議な物体を認めた。冴子のもとへ帰る途中、高野は胃潰瘍で大手術をして九死に一生を得た同じ船のコック長、江原を見舞った。彼は保育園の保母をしている一人娘早苗と保育園の子供達にかこまれ、今は生きることのすばらしさを身にしみて感じていた。
しかし全人類の平和は、世界各地に連鎖反応的に起こりつつある侵略と闘争に依り、危機に追いつめられていた。そして連邦軍ミサイル基地では不測の事態に備えて、核弾頭を装填したミサイルがボタン一つで発射される状態にあった。突然緑色の平和ランプが消え、開戦の赤ランプがともった。発射員は反射本能的にボタンを押した。無気身な高周波の音と秒時計の針が人類壊滅を告げ始めた。その時、卓上の電話が気違いのように司令の誤りを伝えた。発射取消し「五・四。三・・・・・・」時をきざむ秒時計が零の手前で停止した。「よかった!」係員は虚脱に近い表情で喘いだ。
一方、同盟国ICBM陣地でも作業員のミスからダイナマイトが暴発、核弾庫が誘爆の危機に襲われた。そうなれば世界は破滅だ。突差にこう判断した司令官は、単身命わして起爆装置を外すためにとどまった。連邦国側も一平卒に至るまで世界の平和を心から念じているのだ。
平和の願いはパリの首脳会談に託されれた。茂吉は神経痛に顔をしかめるお由に代わって。庭にチューリップの球根を埋めてやるのだった。
結婚を控えた冴子は茂吉とお由の愛情に包まれ高野との愛を確かめ合った。
一瞬の平和も束の間に、ベーリング海上で連邦軍と同盟軍の編隊機は衝突事故から戦闘状態に入った。この突発事にくすぶり続けた各地の侵略と闘争は再び開始された。日本政府は必死に、平和と停戦への呼びかけを続けるのだったが――。北極海のミサイル潜水艦は深く潜行し、物凄い気泡と共に次々とロケットを噴射した。
連邦軍爆撃機への報復として同盟軍の原子弾道弾は地を揺るがし幾条のロケットの火焔と共に東京へ向け発射された。
東京は混乱の巷と化し、恐怖は全ての人々を捕らえた。保育園では早苗がなす術もなく、子供達の不安のまなざしを全身で受け取めるだけであった。その子供達には共に死ぬ人もなく、またあっても遠く離れ、親の名を無心に叫び続けるだけであった。幸福を、平和を願い続けたのに何故殺されねばならないのだ!という叫びが避難する場所もなく只逃げまどう人々の心に一様に去来した。冴子は二階の無線機で高野の送信をキャッチした。「コーフクダッタネ……」冴子の頬には絶えることなく涙が溢れ出た。茂吉は家族と庭のチューリップを覗いた。まだ芽は出ていないが、地中の種はやがて地上の全てが死に絶えた時静かに芽を吹き花を咲かすであろうと想った。
やがて火球が東京を包み、第三次世界大戦が勃発した。黄・赤・緑の入り混じった光茫が縦横に夜空を切り裂き、太く流れた時、巨大なビルは破片となって飛び散り、全てが数万度の熱に犯された。そしてそれはニューヨークでも、パリでも、モスコーでも……。
全世界の人々がもっと早く声をそろえて、戦争はいやだ、戦争はやめようと云えばよかったものを……。あらゆる良識を無視して世界大戦争は勃発し、そして終ったのだ。
映画パンフレットより